Thursday, July 09, 2015

メコン諸国へのODA供与:異議あり

7月4日に第7回「日本・メコン地域諸国首脳会議」は東京で開催された。当首脳会議は日本、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイおよびベトナム6カ国の協力・連携を強化することを目的としている。今回の会議はメコン諸国の平和・安定に貢献する「ハード面での取り組み」、「ソフト面での取り組み」、「グリーン・メコンの実現」、ならびに「多様なプレーヤーとの連携」という4本柱からなる「新東京戦略2015」を採択した。

これらの領域に関わる具体的な取り組みを実施するために、日本は2016年度より3年間で7,500億円のODAを関係国に供与することを表明した。 日本は当首脳会議を通じてこれまで3年置きに関係国に対する経済支援の規模を約束してきた。既に2009年に第1回首脳会議では5,000億円、2012年に第4回では6,000億円を供与していた。今回の供与額を合わせると計18,500億円となった。また、安倍総理および岸田外相は日本の供与額がメコン諸国における「良質なインフラ(quality infrastructure)」と「良質な成長(quality growth)」の推進に貢献することにあると強調した。

日本政府のメコン諸国に対するODA供与について以下の理由で異議を申し立てたい。

まず、理論的にODAは発展途上国の貯蓄と投資ギャップの一部を埋め合わせ、経済発展に欠かせない資本形成に貢献する貴重な資源である。しかしながら、多くの実証研究は実にODAが受益国である発展途上国にとって一人あたりの国民所得の向上をもたらしていないことを示している。ODAはむしろ受益国において腐敗状況を悪化させた原因となっているという実証研究の結果も報告されている。

筆者は勤務先の大学院生と共同で、1993-2009年の期間中にカンボジア、ラオス、ベトナム3カ国におけるODAと経済成長の関係に関する実証分析を行った。当研究がカンボジアとベトナムにとって経済成長はODAと負の相関関係であり、ラオスにとってODAは当国の経済成長に効果的な政策道具ではないという結果を明らかにした。

次に、米国のTransparency Internationalが作成した175カ国の「腐敗認識指数2014」によれば、ラオス、カンボジア、ミャンマー、タイとベトナムはそれぞれ145位、156位、156位、119位、85位となっている(ちなみに、日本は15位である)。貴重な税金で賄うODAを供与し、メコン諸国との協力・連携を強化するどころか、各関係国の腐敗を助長する懸念を払拭することができない。

第三に、「良質なイフラ」とは 高品質、安全、環境保全や持続可能な開発を確保することを保障するインフラのことを指す。また、「良質なインフラ」は効率な経済成長をもたらすことも意味する。前者に関して政府間の国際協力や企業部門において欠かせない行動規範となりつつある。後者については希少な資源である資本を効率的に使用することである。そして、「良質な成長」とは人、社会、経済、環境等の諸側面に対して優しく、かつ包括的な経済成長のことを指す。「良質なインフラ」は「良質な成長」の実現にとって必要条件であることが明らかである。カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムの2000-2014年の期間における限界資本生産量比率(incremental capital output ratio, ICOR)の平均値を試算してみれば、それぞれは17.6、2.5、29.3、3.5である。つまり、1単位の成長を実現するために、それぞれの国は17.6単位、2.5単位、29.3単位、3.5単位の投資が必要とする意味である。明らかにカンボジアとタイは極めて投資の効率性が悪い。そうした観点から、「良質なインフラ」を推進するために日本のODAを供与すると日本政府が考えているのであろう。しかしながら、果たして投資効率が悪い経済に日本のODAによって「良質なインフラ」が確立されるかという疑問が残る。

以上の3点を踏まえれば、日本政府は受益国の実態を十二分に把握した上で、腐敗、ODAと経済成長の関係、投資効率の観点から厳密に検討を重ね、ODA供与の判断を付けたかを疑うのである。日本の財政状況は決して余裕がないため、ODA供与には慎重の上にも慎重を期して判断してほしい。そのように考えているのは筆者一人だけではあるまい。




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