Monday, October 13, 2008

自社株買い

日本の株安は続いている。10月3日にあったTOPIXと日経平均はそれぞれ1,047.97、10,938.14から10月10日の取引終了時点に840.86、8,276.43へと下がった。当期間中に東証とジャスダックを合わした時価総額は352兆円から282.3兆円へと減少し、約1週間の取引期間に69.7兆円が市場から消えてしまったのである。こうした深刻な状況を背景に、麻生総理は10日に世界的な株安の連鎖によって株価が下げ止まらない日本の株価への対策として、自社株買いの規制の一部を年末に撤廃することを表明した。

この対策は果たして効果があるかどうかを考えてみたい。

まず、株価の形成に関する基礎を見よう。株の価値は企業が作り出そうとする将来の収益の割引現在価値で決まるのを理解しなければならない。つまり、企業の将来利益はチャッシュフローで決まり、それは株主に対して配当金として、それを市場金利で割り引いて現在価値形で配分される。ここで企業業績は株価の形成に重要な要素であり、また、注意すべきは株の価値が一期先もしくはそれ以上の期間における将来の配当ないし利益で定まるものであって、過去の利益によるものではない点である。

次に、企業の収益は株価形成に影響を及ぼすことから、株の価値は、1)企業の将来収益の予想、2)その予想収益の上下、3)予想収益と異なる実績、と言った情報によって左右されることになる。基本的に、それらの事柄から株価が変動(つまり、株価が上がったり、下がったり)するのである。これらの情報をもとに人々は株の売り買いを行っているわけである。

したがって、麻生総理の自社株買いという対策は日本の株価の続落を歯止めさせると同時に、株価の持ち直しに対する効果が極めて低いという結論になる。また、以下述べる理由から日本の経済現況は自社株買いが株価の上昇をもたらすことが困難である。

自社株買いの狙いは、企業が自らの余分の資金を使って株式市場から自社株を買って株の価値を高めさせ、それによって株主価値の向上をもたらすことである。それは市場で流通している株の数を減少させることによって実現されるものである。さらに、企業の利益が増えた場合、または、前期の収益とあまり変わらない場合でも、流通されている株の数がさえ減れば、一株当たりの収益率が高くなり、その結果、株主価値が高まることになる。こうした因果関係で自社株買いを通じて株価が上がり、株主にとっては喜ばれるのである。

しかしながら、明らかに企業は自らの資金をもたなければ自社株買いを実施することができない。企業の自社株買いの資金は利益によって左右される。今起きている株価の急落はアメリカのサブプリマム問題を端に端した世界金融危機の状況から実物経済に影響を及ぼしている。国際経済の相互依存が高まってきた中で、今後の日本企業の予想業績ないし予想利益は下向きになり、いつ、どういう環境によって底打ちになるのかが見定まらない状況はしばらく続きそうである。こうした状況から、日本企業は自らの資金を活用して自社株買いによって株の価値を高めることが難しいと指摘せざるを得ない。

したがって結論として麻生総理の自社株買いの効果はあまり期待することができない。既に一段と悪化した経済状況を対応するために、やはり10日にこのブログで主張した内需拡大による景気対策に必要な2次補正予算を早急に導入するほかない。また、その一環として、企業が自ら保有している資金は自社株買いを使うよりも、設備投資に向けた方が自らの将来利益の改善に繋がり、結果として株価が上がることに貢献するのである。

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