Friday, May 09, 2008

暫定税率の復活に関する考察

4月30日に自民・公明両党の337人の衆議員(3分の2以上)の賛成で、「道路特定財源」のための本来の税率に暫定的に上乗せたガソリン税を可決し、5月1日よりその関連法が施行された。この暫定税率は約2.6兆円の税収が見込まれている。暫定税率の維持・廃止か、特定・一般財源かをめぐって政府・与党と野党の間に過去数ヶ月にわたって攻防が繰り広げられ、マスコミが詳しく報道されてきた。

建設国債や赤字国債は発行されないことを前提に、ここでマクロ経済の乗数効果を用いてこの問題を検討してみたい。賛成派にとって暫定税率による税収は道路建設のための財源、つまり公共投資の効果が得られるという考えを置くことができる(ただし、中でも少子高齢化や温暖化等を対応するための一般財源にすべきと主張する人達もいる)。一方、反対派にとって暫定税率を廃止するのは減税の効果が得られるという考えを置くことができる。

まず、公共投資による乗数効果を見よう。一般的なマクロ経済モデルで用いられる次のパラメーター値を適用する、すなわち、道路建設の用地収得費用は公的固定資本形成額の20%、その乗数は1.2とする。よって、暫定税率の税収である2.6兆円から用地収得費用を差し引けば2.08兆円が道路建設にかかる費用となり、また、それによる公的固定資本形成の乗数から約2.49兆円の経済効果が得られるのである。

次に、減税による乗数効果を試算しよう。様々な実証研究によれば、日本の限界消費性向は06~0.7、消費乗数は1.2~1.3である。ここではそれぞれ0.7、1.3を適応する。よって、限界消費性向による消費増は1.82兆円となり、また、その消費乗数効果は約2.43兆円の経済効果が得られるのである。

以上の試算から、暫定税率を維持する場合は、廃止する場合と比べて約600億円の効果があるという結果になる。因みに第一生命経済研究所は約2.21兆円の増税効果(ここでは公共投資効果と同様)を試算している。

確かに乗数効果の観点から暫定税率を維持し、道路建設を継続した方が日本のGDPに600億円の拡大を寄与することができる。しかしながら、この効果は果たして国民にとってメリットがあるかどうかを考えなければならない。言い換えれば、暫定税率からの税収を通じた公共投資では無駄が発生しないという大前提があること。そして1億2千万人全員がその恩恵を受けられるという保証がなく、むしろ土建屋を中心となる集団がその利益を受けるのは実態である。

それに対して暫定税率廃止は車を利用する人達(少なく見積もっても7千万人が車を利用している)の規模は大きく安いガソリンの恩恵を受ける。さらに、より重要なことは減税による可処分所得の使い方が個々人の裁量に委ねられ、資源配分の効率性が向上されるのみならず、経済厚生も高まる。

こうして見ると、暫定税率は実に無特定多数の国民の利益よりも、少数の利益集団のためのものであるのは明らかである。

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