Tuesday, August 17, 2010

就職留年

 2011年3月末に約56万8000人の大学生が卒業される予定である。リーマンショック以降の世界経済不況、ならびに依然として国内の経済構造が転換できない状態に起因する有効需要の不足が続いている中で、来年の春に卒業する大学生は仕事に就かない者は約7万9000人と各メディアの集計で明らかになった。実際に大学院(修士や博士課程)の修了者をもカウントすれば、教育課程を終えて大学・大学院を出る人の数と仕事に就く目処が立たない人の数はもっと高いと思われる。実に深刻な問題である。

 そうした状況下で、文部科学省を中心に政府は就職が出来ない新卒予定者に対する支援を乗り出している。たとえば、就職留年の学生に授業料の一部を公的資金で補助したり、大学の卒業予定者の「エンポロイアビリティ(雇用可能能力)」を高めさせるため、就職活動を仲介・支援する大学のキャリアセンターに就活支援の専門家を配置する費用を補助したりする等がある。残念ながら、政府や大学側の対応策は就職率を高めさせることにあまり役に立たない。のみならず、国家財源の浪費をさえもたらしてしまう。実に、政府や大学側の支援策、あるいはこれから就職留年の対策は「エンポロイアビリティ(雇用可能能力)」を高めることにほぼ関係のないものである。その根拠は少なくとも以下の二つである。

 グローバル経済や国内の社会経済構造が既に変わっている中で、大学の教育内容は依然として供給側の論理で組み立てられている。如何に学生の素質を世の中が求められている人材に育成していくかよりも、大学の教授らが各自の研究成果は世間の実態と関係なく、学生に教え込む(または、紹介する)。さらに、大学のキャリアセンターは就職希望者に対して求人情報の提供とか、どこの企業に同大学を卒業したOB/OGを介して会社説明会に関する情報を提供する業務等のみに専念しているようである。そのプロセスに学生の能力や素質等からなる「エンポロイアビリティ(雇用可能能力)」と無関係の業務である。それは売り手側の商品の品質と無関係に買い手側に紹介して売買を成立させる例えである。

 企業は正規な従業員を多く雇えない理由は二つある。まず、有効需要が不足していること、または供給サイドが過剰であることによって雇用が増えない。もう一つの理由は新卒の初任給、そして彼らを採用した後の給与水準は限界労働生産性に合致していないことである。現に新卒の平均的な初任給は約18万~20万にあると思われ、それが企業にとって負担が高すぎる。にもかかわらず、卒業予定者はその認識を持っていない。売手と買手は非対称な認識という状態に陥っている。売手は賃金の下方硬直性という法則に固執しすぎである。初任給を大幅に(50%、8万~10万)引き避けない限り、労働力の買い手が現れない。また、政府は就職留年の授業料を補助するよりも、その財源を大幅な就任給が引き避けられた新規雇用者に対する補填に回した方が経済に取って効果的である。なぜならば、これらの新規雇用者の消費規模は就職留年者よりも大きく、有効需要の誘発に寄与することになるのである。

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